勝負は前日から始まっている
午前0時、メトロのフィッシュバイヤー井上尚宣は築地オフィスに出社する。すぐに前日に発注した商品の納品確認をするが、その間にも、携帯電話にセリ人からの連絡がひっきりなしに入る。
「よい魚を手に入れようと思ったら、勝負は前の日から始まっています。しかし漁には当たりはずれもある。思ったような魚が手に入っていないという連絡を受けたら、すぐに別の手を打たなくてはならない。魚の仕入れはいつも即決即断。それだけに集中力が必要になります。」
午前2時、一刻も早くセリ場に降りて
オフィスを後にした井上が築地市場の検品場所に向かうのは午前1時半ごろ。井上の作った発注表をもとにすでに集まっている商品の品質や数量をチェックし、トラックに積み込んでメトロ各店へ送り出す。これが築地からの第一便だ。
「以前は第一便を送り出してからセリ場に降りていましたが、最近はその時間がどんどん早くなっています。競争の激しい時代。少しでも良い魚、珍しい魚を仕入れようと思ったら、一刻も早くセリ場に降りなくてはならない。」
築地に広げる井上ネットワーク
セリ場に降り、機敏に商品を見て回る井上に、あちこちのセリ人から声がかかる。年季の入ったセリ人が笑顔で呼び止めたかと思うと、遠くからは若くイキのいいセリ人が、「井上さーん」と声を限りに呼ぶ。今や築地で井上は幅広いネットワークを着実につくりあげている。自分の顔を売ることがメトロの顔を売ることになると思えば、それだけにやりがいもあるという。
「自分の本気を見せること。それが市場という社会で人間関係を築いていく秘訣。誰だっていい加減な人に、良いシナモノを売りたくはないでしょう。だから私はいつも真剣勝負でこの仕事に全てを賭けています。目の肥えたメトロのお客さんたちが、思わず膝をたたくような、とびきりの魚をこれからも仕入れていきたいですね。」